三叉神経は顔や口腔内の感覚と咬筋や側頭筋など咀嚼に関連する筋肉の収縮を担っている神経です。脳幹から出たあとで3本に分かれ、額、頬、顎に分布していますので三叉神経と呼ばれています。顔や口腔内に電撃痛にたとえられる激しい痛みを発作性・反復性に生じる三叉神経痛は、洗眼や咀嚼、歯磨きなどで誘発され、日常生活に多大な影響を及ぼします。適切な治療が行われないと食事もままならなくなり、栄養状態が悪化してしまいますし、歯が原因と間違われて無用な抜歯に至ることもあります。
三叉神経痛の多くは、この神経が脳幹から出てくるあたりで脳動脈によって圧迫されることで生じます。実際に手術でこの圧迫を解除すると多くの場合痛みが消失します(神経血管減圧術)。発症年齢が中年以降に多いのは動脈走行の個別性(偏位)に動脈硬化性変化(屈曲蛇行)が加わって神経への圧迫が増強するためだと考えられます。時に腫瘍による圧迫が原因のこともあります。三叉神経痛の患者さんには頭部MRI検査を受けていただき、腫瘍の有無とともに、三叉神経と近傍の脳動脈との接触の有無を確認します。
三叉神経痛にはカルバマゼピンなどの薬が有効ですが、薬疹や眠気、ふらつき、肝機能障害などの副作用のために薬による痛みのコントロールが困難な患者さんには、神経血管減圧術を提案しています。脳動脈による圧迫が原因の場合には、耳の後ろに100円硬貨大の開頭をすることで治療できます。手術時間は2~3時間で、約1週間の入院です。全身麻酔による手術のリスクが大きいと思われる患者さんにはガンマナイフという放射線治療の選択肢もありますので連携施設に紹介しています。
<三叉神経痛を来した脳腫瘍例>