日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院脳神経外科
神経内視鏡センター
渡邉督
脳の中で使う内視鏡のことを神経内視鏡と呼んでいます。神経内視鏡を使った体の負担の少ない手術(低侵襲手術)に積極的に取り組んでいます。神経内視鏡の特徴は、狭い入口から入ることができること、視野が広いこと、深部でも近づいて観察できること、水中の手術操作が可能であることが挙げられます。これらの特徴を生かして、なるべく患者さんの負担を減らすよう心がけています。専門的な診療、手術をよりよい環境で受けていただくために、神経内視鏡センターを立ち上げました。以下、現在当施設で行っている神経内視鏡手術をご紹介します。
※ 画像はすべてクリックして拡大表示できます。
直径2.7mmと4.0mmの内視鏡(硬性鏡)
神経内視鏡手術はモニターを見ながら手術を行います。
下垂体腫瘍の分野は神経内視鏡手術がもっとも進んでいます。脳の中央底面に位置する下垂体の腫瘍は、従来、鼻の穴、唇の下からのアプローチで手術用顕微鏡下に行うのが一般的でしたが、最近は鼻の穴から入れた内視鏡で観察しながら腫瘍を摘出する方法が行われるようになってきました。この方法では術後の痛みや腫れもほとんどなく、従来の顕微鏡手術に比べ手術の負担が少ないので、体力の回復が早いです。片鼻からアプローチし、径4mmの細長い内視鏡で観察しながら、鼻の奥の骨を削り、腫瘍のあるトルコ鞍と呼ばれる骨のポケットに到達します。視野が広いため、腫瘍の境界での摘出を心がけ、できるだけ根治を目指します。ホルモン産生腫瘍においては腫瘍の摘出度合いが治療効果に反映するので、全摘出を目指し、良好な治療成績が得られています。2012年この術式が保険収載され全国的に行われ始めています。
鼻の穴から内視鏡で観察しながら腫瘍摘出します。
内視鏡観察下の図。大きな腫瘍は少しずつ摘出し、なるべく周辺からはがして摘出します。
ホルモン産生する微小腫瘍は境界ではがして全摘出を目指します。
非機能性腫瘍 術前(左)と術後(右)MRI
ホルモン産生腫瘍(微小腫瘍)の術前(左)と術後(右)MRI。術後ホルモンは正常化しました。
内視鏡下経鼻下垂体手術の延長上の手術です。鼻孔からのアプローチは同じなのですが、頭蓋底の骨を削ることによって、対象となる疾患の守備範囲が広がります。前頭蓋底、中頭蓋、斜台部、眼窩の腫瘍、頭蓋内腫瘍にアプローチできます。頭蓋底の腫瘍は根治を目指す必要がありますが、低侵襲で根治を得られる本術式が最もよいと考えています。対象は髄膜腫、頭蓋咽頭腫、脊索腫、巨大下垂体腺腫などです。安全に腫瘍を摘出できる症例に対してこの術式を選択します。
頭蓋底の骨を削ることで頭蓋底に広がる腫瘍へのアクセスが可能になります。
巨大下垂体腫瘍に対する拡大蝶形骨手術。術前(左)と術後(右)MRI。腫瘍の大部分が摘出され、眼の神経の圧迫が取れました。
鞍結節髄膜腫に対する拡大蝶形骨手術。術前(左)術後(右)MRI。腫瘍は全摘出されました。
鞍結節髄膜腫手術の図です。頭蓋内の重要な構造物と腫瘍を丁寧にはがします。
当院で行っている脳出血に対する手術では、4cmの皮膚切開のあと骨に1.5cmの穴を開けて、直径1cmの透明の筒を脳内に挿入します。脳実質を経由して血腫に到達し、硬性鏡で観察しながら血腫の吸引と止血を行います。50cc以上の大きな血腫も除去可能です。また脳室という水をためる部屋に出血した場合は軟性鏡(細い胃カメラのようなもの)も使用して血腫の除去が可能です。従来の開頭手術に比べ、患者さんの負担は少なく、リハビリも早くから始められます。
径1cmのシース(透明の筒)を介して、手術を行います。吸引管は電気メスと接続し、止血に用いることができます。
両側に大きな血腫がある場合も同時に手術ができます。術前(左、中)術後(右)CT。
脳室(水をためる部屋)の中の出血もとることができます。術前(左)術後(右)CT。
小脳の出血も迅速に除去して大切な脳幹の圧迫を解除できます。術前(左)術後(右)CT。
内視鏡下脳内血腫除去術を発展させて脳腫瘍にも応用しています。皮膚切開は4cm、1.5cmの頭蓋骨の穴を介して行います。直径1cmの透明シース(筒)を主に使用して、腫瘍を吸引除去、剥離します。手術は顕微鏡手術と異なり、水中での操作観察が可能です。対象は脳室内腫瘍、脳内腫瘍で、適応を十分検討して手術計画を立てています。摘出に困難が予測される場合は、開頭を3㎝まで広げ、太いシースを使用します。最近は様々な大きさのシースを使用できるので、適切なサイズを選んで、腫瘍の全摘出を目指します。当院ではこれまでの経験の蓄積がありますが、まだ一般的な手術ではないので、十分なインフォームドコンセントを行ってから手術法を選択しています。
血管腫(脳実質内腫瘍)摘出の図と術中写真、術後創。4cmの皮膚切開です。術後2週間の写真ですが、ほとんど目立ちません。
シース(筒)自体もある程度動かすことができます。シースの中でも道具を動かします。
側脳室の中の腫瘍を摘出。術前(左)術後(右)MRI。
側脳室の中の腫瘍を摘出。術前(左)術後(右)MRI。
小さな開頭からの手術は鍵穴のような狭い入口からの手術に例え、キーホール手術と呼ばれています。開頭手術を行う際も、同じ効果が得られるのであれば、なるべく傷は小さく、体や脳の負担を軽減する努力をします。その一つの方法として、皮膚切開、開頭範囲を極力小さくし、内視鏡を利用して行うキーホール手術があります。前頭蓋底へのアプローチは眉毛に沿った皮膚切開で、3㎝の開頭を行います。骨の出っ張りの向こうや、神経の裏がよく見える利点があります。
小さな入口から広い範囲を見ることができます。ほとんど脳の圧迫はないです。頭蓋底の骨の影や、大事な神経の裏の観察もできます。
左眉毛にそって5cmの皮膚切開です。術後2週間ですが、ほとんど目立ちません。
下垂体腫瘍で頭蓋内に主に腫瘍がある症例。術前(左)術後(右)MRI。
トルコ鞍が狭く、前頭頭蓋底に広く伸びる鞍結節髄膜腫。術前(左)術後(右)MRI。