
病理検査の仕事は一見、地味な作業です。生検材料や、手術で摘出された臓器を、切り出し、容器に詰め、自動包埋機にセットし、翌日、パラフィンで包埋し、ミクロトームで薄切し(うすぎりではありません。ハクセツです)、スライドガラスに貼付し、各種の染色を駆使し、プレパラート(標本)を作製する。
1mmにも満たない、小さな生検材料は、特に気を遣います。なぜなら、この小さな組織を取るのにも、患者さんは大きな痛みを伴っているからです。「取り直し」なんて、おいそれとは言えません。技師は、小さな組織を失くさないよう、濾紙に包んだり、スポンジで挟んだり、色をつけたり、細心の心配りを欠かしません。パラフィン包埋の時も、ピンセットの先にくっついた小さな組織片を、器用にパラフィンの中に埋めていきます。薄切の時に、組織が失くなってしまわないよう、大小ある組織片を、深さを考えながら埋めていきます。
ミクロトームでの薄切作業の際には、厚さ数ミクロンの切片が、エアコンの風に吹かれて、飛んで行ってしまうこともしばしば。薄くスライスされた切片を、割りばしの先にくっつけて、そっと水槽に浮かべます。最近では自動薄切装置なども開発されてはいますが、小さな生検材料は、機械では薄切することができません。技師が丁寧に面出しして、1mm単位の組織も失くさず薄切できるのです。
切片に色をつける工程の染色は、技師の腕のみせどころ。特に、絶妙な色のコントラストで染め分けされた特殊染色の標本は、本当に美しいです。
どんなに高名な病理医でも、標本の出来が悪ければ、正しい診断をすることができません。病理技師は、病気の診断を左右する重要な責任を担っているのです。
地味で細かい作業の連続ではありますが、どの過程においても、病理技師は手を抜けません。病理医が正しく診断できるよう、神経を使い、技術を駆使するマイスター(職人)の集団なのです。
病理技師は病理医とともに働いています。私は、病理技師は病理医の片腕として、信頼関係を築けなくてはいけないと思っています。しかし、医師から信頼を得るのは、なかなか簡単なことではありません。病理医の期待を裏切らず、要望に応えつつ、こつこつと関係を築いていくしかありません。病理技師として十分な知識や技術を持っていなければなりません。病理医から、標本作製についての意見を求められることもありますから、自分の意思、信念を持って、意見できる技師でなくてはいけません。
常に新しい情報にもアンテナを張っていなくてはいけません。これからはがんゲノム医療の時代、最新の治験や、遺伝子検査の知識も必要です。
私は、これから臨床検査技師として働く方々には、病理検査の面白さ、奥の深さを理解していただきたいと思っています。地味な作業も多いですが、病理技師として、診断に直接、関わっているということに責任とやりがいを感じることができます。
自分の仕事に誇りを持った「マイスター」をめざしていただきたいと思います。
管理職(臨床検査科の課長として)の役割は、会社(病院)の目標に対して、組織(臨床検査科)のパフォーマンスを最大限に引き出し、達成することにあります。
そのため我々は日々の研鑽を欠かすことはできせません。
[能力を磨く]
知的労働の現場において我々に求められるのは以下に示す5つの能力だといわれています。
1.基礎的能力(知的集中力と知的持続力)
2.学歴的能力(論理的思考力と知識の習得力)
3.職業的能力(直観的判断力と知恵の体得力)
4.対人的能力(コミュニケーション力とホスピタリティ力)
5.組織的能力(マネジメント力とリーダーシップ力)
ここに挙げた能力のうち、「基礎的能力」や「学歴的能力」はAI時代の到来により、すでにAIが人間を代替しつつあります。したがってAIによって置き換わることができない「能力」を自分自身で磨いていかなければなりません。
「人間の心」や「顧客(患者)の心」を相手とした我々の仕事は、AI革命の時代にも淘汰されることのない能力、すなわち「職業的能力」「対人的能力」「組織的能力」が求められています。
中でも経験や体験を通じてしか掴むことができない「職業的能力」の「直観的判断力」は
スキルやノウハウ(技術)に加えてマインドやハート(心得・姿勢)を重視し、自分自身の「再教育」を行っていますが、今後組織内にも広く浸透していければと考えています。
[部下とのコミュニケーション]
1.関心を持って聴く
以前、部下に対して「好きなこと」や「取り組んでいること」を尋ねてみると、その部下は熱心に語り始めました。こうしたやりとりをきっかけに、その後の私とのコミュニケーションが活発になり、仕事のパフォーマンスも向上し、お互いが「いい距離感」となり、現場の抱える問題点や若い世代の指導法に関しても積極的に意見を言ってくれるようになりました。
また、役職者の業務にも少なからず関心を持つようになり、以前は全く興味を示さなかったマネジメントに関しても前向きな発言に変わってきました。
何気ない会話が部下の成長に繋がる“きっかけ”となるのではないでしょうか。
2.アクノレッジメント(承認)する
部下の取り組みに対して、進捗や変化、成果などを相手に伝えることを心がけています。
「自己成長感」は人の意欲や自発性を促すエネルギー源になり得るとされており、目標に向かって確実に進んでいる、進歩していることを相手に伝える「フィードバック」を重視しています。
また、アクノレッジメントとは異なりますが、「良い仕事」をした時は素直に「褒める」ことも相手の意欲をかき立てるには有効な方法と考えます。
“未来へ繋ぐ”
夢や志を語りながら人間関係力を磨き、そこに仲間が集い、組織力を向上させ、一体感のある集団、そんな組織づくりを目指しています。
管理職に求められる素養や能力は時代とともに変化しており、ますます高度な能力が求められるようになっていると感じます。求められる能力が変化していく中でも私が信念として大事にしていることは人への気遣い」です。出勤してきた部下の様子がいつもと違うなと感じたら「大丈夫?」と必ず声をかけるようにしています。部下だけでなく、検査室業務を支えてくれている事務スタッフ、清掃委託業者、外部委託業者の方々にも、何もなくてもできるだけ声をかけるようにしています。声をかけてみると、業務に関することだけでなく、趣味、家族のこと、悩み事、思いもよらぬ話が聞けることもあり、そこからさらに会話が広がることもあります。日常の声かけによってコミュニケーションがとりやすい関係を築いておくことが、仕事に活かされることを今まで多く経験しました。
元来、部下にとって上司は話しかけづらい存在だと思います。イスに座って待っているだけでは、部下の声はほとんど聞こえてこないでしょう。上司から声をかけていくことで初めて心理的に安全な上司に近づくことができるのではと考えています。
コロナ禍の影響があるのか、昨今、人はますます不寛容になったような気がします。他者批判や自己中心的な言動を見聞きすることも少なくありません。このような時代だからこそ、「人への気遣い」がこれまで以上に大事であると感じています。
微生物遺伝子検査課は新型コロナウイルスのPCR検査を担う部門であり、コロナ禍でスタッフの
肉体的・精神的負担は、これまで以上に増しています。そうした環境下で部下の負担が少しでも減り、チームのパフォーマンスを高めるためにも、私の信念である「人への気遣い」を忘れず、心理的に安全な上司であり続けたいと考えています。
係長は管理職としての職務遂行能力に加えて、専門家としての知識や技術が求められるポジションです。まして私は、50代の時に長い間配属されていたHLA検査から血液検査に異動になり知識や技術が浅いために自らも勉強する毎日です。そういったポジションにある私が大事にしていることは「スタッフが働きやすい環境・雰囲気づくり」です。私が管轄する血液検査係は、私を含めて5名のスタッフがいますが、私以外は全員が20代と30代であり、非常に若い職場です。彼らは学会や勉強会にも積極的に参加し、認定資格を取得するなど自己研鑽にも励んでいます。そういった職場環境において働きやすい環境・雰囲気を維持するために、「専門的知識の積極的な活用」、「権限移譲による係運営への参加」を意識しています。前者については認定資格を取得した技師に専門的知識を活用してもらうため、血液内科をはじめとする臨床医とのディスカッションに出来るだけ参加できるよう配慮しています。また、後者については、権限移譲できる業務については、どんどん若手スタッフに協力してもらい、係の運営に自分自身も貢献しているという気持ちをもってもらうようにしています。業務を任せることで私自身が考えもつかなかったような素晴らしい提案をしてくれることも少なくありません。質の担保された結果を臨床に報告する上で機器の整備、日々の精度管理も大変重要ですが、職場で働くスタッフの心身の健康も重要な要素であると考えています。「毎日、出勤してくることが楽しい職場を提供する」が私の管理職としての大きな目標です。
血液検査係のスタッフは日常業務が多忙な中であっても、採血室が混雑していれば率先して応援に向かったり、業務改善の提案を挙げてくれたりと非常に前向きな姿勢をみせてくれています。こうした姿勢は彼ら自身の資質によるところが大いにあると感じていますが、スタッフが前向きな気持ちで働けるような職場環境を維持できるようサポートしていきたいと考えています。
超音波診断課は2021年4月に課として立ち上がり、同年10月には、院内の超音波検査を集約し『超音波センター』を開設しました。
当院検査科では、それまでも年間1万件を超える心エコー検査を始め、経食道心エコー、頭頚部や四肢の血管エコー、乳腺、甲状腺、関節といった体表エコーを行っていました。現在は腹部エコーも含め、神経や甲状腺以外の頸部臓器なども超音波センター内で行っています。このようにエコーは全身の観察に用いられるようになっています。エコーだけではなく、CT、MRIといった他の画像モダリティーの進化も目覚ましいものがあります。その中でエコーはやはり検者の技術に依存するということが必ずデメリットとして挙げられます。
そのデメリットを出来るだけ少なくすれば、リアルタイム性や瞬時の血流情報などエコーでしか分からない情報も大変多く、エコーが患者さんにとって有益な検査になることは間違いありません。そのためには我々技師に任せてよかったと思ってもらえるレベルに到達し維持していくことが必要です。それには各自の継続した努力、学習も必要ですし、後輩を育てていくこと、教育することを技師全員が担わなければなりません。エコー検査に入り始めた多くの技師は先輩のように出来ないことに落ち込みます。その時に感じたもっと出来るようになりたい、もっと勉強しないといけないという気持ちをずっと持ち続けるこの向上心こそが最も大切な事だと思います。
エコー検査はその結果が直接、治療方針、方法の選択に繋がります。その責任を感じながら1例1例の検査に向き合うことが必要です。そのためにはエコーを担当する技師には、知識、技術そして態度が大切だと思っています。その3つが揃ってこそ、私たち技師が治療への架け橋となる検査が出来るようになると信じています。
超音波診断課のスタッフと一緒に日々勉強しながら、これからも治療への架け橋を沢山築いていきたいと思っています。
私は生体検査室で神経聴覚生理係長として、脳波、聴覚、平衡機能検査などの管理を担当し、その他にも心臓や血管、甲状腺の超音波検査など、多くの検査に携わっています。私は患者さんと直接関わる仕事が好きで、大きなやりがいを感じながら働かせていただいています。ここでは日々の生体検査業務の中で、ふたつの大切にしていることと、新たな気づきについてお話ししたいと思います。
ひとつめの大切にしていることは、「検査についての丁寧な説明」です。患者さんは検査を受けるにあたり、さまざまな不安を抱えておられます。不安や緊張が検査に支障を来たすこともあります。私は「プレパレーション(心の準備)」という小児医療の概念を取り入れ、丁寧でわかりやすい検査説明を目指した活動を行っています。特に脳波検査では説明パンフレットの配布や小児病棟への出張説明などを行い、大きな効果を得ています。今後もスタッフを巻き込んで、「丁寧な説明」を増やしていきたいと思っています。
もうひとつの大切にしていることは、「リアルタイムで症状を把握すること」です。臨床検査技師の養成課程には、症状の聞き方を学ぶカリキュラムはありません。検査時に患者さんの状態をしっかり観察し、コミュニケーションを取りながら症状などを聞くことは、質の高い検査を行うためには必須の技術です。時には症状の悪化や発作状態のため緊急連絡が必要な場合もあります。私たちは最初に検査結果を知る医療従事者として、大きな責任があります。特に経験の浅い技師が症状を把握する力量の強化は今後の大きな課題です。
近年、急速な高齢化によって心不全、認知症、てんかん、動脈硬化などの患者さんが急増しており、検査依頼が増加傾向です。中でも脳波検査は少子高齢化と高齢発症てんかん、認知症の急増により、対象が子供から高齢者に変わってきました。また、高齢者のてんかん発作は症状が複雑でわかりづらい場合が多く、脳波検査の重要性が高まっているため、通常の脳波以外に医師による緊急簡易脳波検査も行っています。
このような中、長年幅広い業務に携わり、それぞれが独立した仕事のように感じていましたが、「高齢化」というキーワードによってひとつひとつが密接に関係していることに気がつきました。最近の研究では認知症とてんかんの関係について指摘されており、いろいろな仕事がどんどん繋がりつつあります。認知症の知識を深めるため、当院では今のところ唯一の「認定認知症領域検査技師」という資格も取得しました。
この気づきによって、以前は自身を広く浅いジェネラリストと感じていましたが、今後は認知症、てんかん、心疾患等の高齢化の総合的な知識を持った「幅広のスペシャリスト」を目指し、患者さんや仲間を大切にしながら、挑戦し続けていきたいと思っています。
私が管理者として最も力を注いでいることはリスクマネジメントです。リスクマネジメントとは一般的に「リスクを組織的に管理(マネジメント)し、損失等の回避又は低減を図るプロセス」と定義されますが、病院においては「医療事故の回避又は低減を図るプロセス」と言い換えることができます。医療事故には患者への影響度の大きいアクシデントと影響度の小さいインシデント(ヒヤリハット)がありますが、私が扱うものはインシデントです。リスクマネジメントに携わる技師は私以外に各部署合わせて計12名おり、リスクマネージャーと呼ばれています。臨床検査科で発生したインシデントに対し、まず該当部署の責任者が再発防止策を考え、考え出された対策を12名のリスクマネージャーで検討し、最終的な対策を決定しています。該当部署以外のリスクマネージャーを含めて検討することで、別の視点からの原因や問題が浮き彫りとなり、対策に生かされる場合もあります。時には意見の相違により白熱した議論が展開されることもありますが、これもインシデントの再発を防ぎたいという思いの表れだと思います。再発するインシデントに対しては、院内の医療安全推進室と合同で原因の分析を行い、より効果的な対策が考え出される場合もあります。インシデントは発生しないに越したことはありませんが、インシデント対策の積み重ねがアクシデントの防止につながるため、些細なインシデントに対しても、しっかり対策を考えていきたいと思います。
私は日常業務では病理検査に所属しています。リスクマネージャーとしての立場もありますが、最も心がけていることは「ヒューマンエラーはいつでも起こり得る」という危機意識を常に念頭において業務を行うということです。病理診断は患者にとって最終診断となり、その後の治療方針が決まるため、検体取り違えや検体紛失、コンタミネーションなどのミスは絶対にあってはなりません。ホルマリン固定された検体から標本を作製するまでの間には数多くの工程があり、要所要所でミスを防ぐための工夫やシステム的な対策を行っています。しかし、重大なミスを確実に防ぐ対策は築いていても、病理検査は手作業が多いため、些細なミスを完全に無くすことはできません。ミスが起こった場合はその後の対応が重要であり、些細なミスでも報告するシステムを築いており、再発防止策をスタッフとともに考え、情報を共有するよう努めています。
最後に、検査件数や検査項目の増加に伴い、効率性が優先される傾向にありますが、ひとつひとつの検査を確実に、間違いなく行うことを最優先に考え、「ヒューマンエラーはいつでも起こり得る」という危機意識を忘れずに、真摯に日々の業務に取り組みつつ、リスクマネージャーとしても、信頼され、臨床検査科のリスクマネジメントの一翼を担う存在になれるよう、努力していきたいと思います。
係長の立場として2部署目となる一般検査室では、尿検査が日常業務の大半を占め、尿中の細胞を顕微鏡で見ることに時間を掛けます。尿中の細胞成分は変性しやすく、色の濃淡などで細胞を分類しなければいけないため、患者背景や尿をどのように採取したかの情報も確認しながら検査を進めていきます。
一般検査室所属の要員は3名です。1名は育児短時間勤務中、私も含め2名は微生物検査室とワークシェアしており、普段は2名で仕事を行い当直明けや休暇、多忙時には微生物検査室から応援に来てくれています。昨年、一般検査室に異動となり、当直業務として一般検査は行ってきましたが日常業務としてこなすとなると、知識と経験も不足しており日々勉強の毎日です。
一般検査室は、尿検体や便検体、微生物検体の提出窓口となっており、患者さんや他の医療スタッフとのコミュニケーションも重要です。問い合わせも一般検査に限らず広範囲に渡るため、生化学検査・微生物検査・血液検査での経験を活かし、問い合わせにも柔軟に対応していきたいと考えています。
コロナ禍ということもあり、実技講習会が軒並みオンデマンド配信になり受講しやすくなった反面、自宅にいることで集中しにくい環境でもあります。育短中の要員もいるため、勉強会で得た情報を日常業務の会話の中でも共有する様にしています。また、判断に困る時は検査オーダーがなくても病理検査に染色をお願いしたり、結果が気になる時は標本を借りて確認したりと他部署の協力も仰ぐようにし、知識を積み重ねています。
一般検査室に配属されて2年となりますが、これからも小さな気づきを大切に要員と共に検査業務の整備を進めていきたいと考えています。
生体検査課と私が所属する超音波診断課が担当する検査は全て患者さんと直に接して行う検査であり、そこが検体検査部門など他の検査部門と違う点になります。また超音波検査はプローブを握って検査した技師がその検査からの情報を最も多く得ることになります。よって超音波検査に携わる技師は患者さんへの接遇と超音波検査・診断に必要な知識の習得の両方が求められるため、超音波診断課の係長としてこの2点の教育とレベルアップに重点をおいています。
患者さんと接する検査を行っていると感謝されたりお礼を言われたりと仕事のモチベーションがあがることも多いですが、反対に検査や施設に対するご意見をいただいたり、苦情を受けることもあり、そうした厳しい声に対応することが重く感じることもあります。こちらに落ち度がある場合もあれば、そうでない場合もあります。しかし検査を受けられる患者さんは、患者さん自身の心理状態が健康な時とは異なることを理解した上で、スタッフには検査に臨んで欲しいと思っています。また病気の影響などで意思疎通が困難な患者さんや時に暴れたりする患者さんの検査を行うこともありますが、そのような時はスタッフ同士がお互いに声を掛け合い、協力して検査が行えるよう配慮しています。超音波検査は右手でプローブを持ち、左手で機器を操作し、目は画面を見ながら疾患を考え、必要な画像や情報が十分か頭をフルに働かせつつも、患者さんの様子を気にかけながら検査をします。また目の前に患者さんがいらっしゃるために分からないことがあっても上司や先輩にその場では気軽に質問することはできません。そのために新しく超音波検査を担当する前には画像の描出、機器の操作、疾患の知識など十分な教育が必要であり、技術、知識の習得には時間もかかります。
このことを踏まえて超音波診断課と生体検査課では全技師で協力して教育をサポートする体制をとっています。さらに積極的に学会や勉強会へ参加してもらい、超音波検査士の取得も促しています。このように超音波検査を担当すると大変なことも多いですが、私自身やりがいのある検査だと感じているので、超音波検査課の技師にもやりがいを持ってもらえるように努力していきたいです。また私自身がまだまだ知識不足だと感じることもあり、これからもスタッフと一緒に知識の習得に励みたいと考えています。
多くの人にとって会社は、自宅の次に過ごす時間が長い場所です。そして、多くの時間を過ごす場所が楽しい・心地よい場所であれば、人生の満足度は高くなります。仕事は決して楽なものではないですし、理不尽なことに遭遇することも少なくありません。決して楽ではない仕事を遂行していく中で、職場環境が悪ければ会社生活はとても辛いものになります。そこで、責任者として少しでも楽しい・心地よい職場環境を提供できるよう努めるようにしています。良い職場環境の提供について4つの取り組みを挙げさせていただきます。
1つめは「休暇の確保(代休の完全消化、時間有給の活用)」です。休暇の確保は比較的取り組みやすく、職場における満足度に直結するためです。「休みたいときに気兼ねなく休みがとれる」というのは非常に重要なことだと考えています。
2つめが「業務の均等化」です。つまり、「誰かしか出来ない業務をゼロにする」ことです。こうした業務があると休みにくい環境が生まれますし、「出来る人」と「出来ない人」の間に上下関係を生む要因にもなります。裁量権の関係などで均等化が難しい業務もありますが、基本的な業務(日常業務、ISO関係業務)の均等化を意識するようにしています。
3つめが「マネージャー自身が心身ともに健康で心にゆとりを持つこと」です。マネージャーの持つ雰囲気は職場環境に大きく影響を与える因子であると考えています。マネージャーがピリピリしていたり、威圧感を漂わせている職場はそうした雰囲気になります。マネージャー自身が、心身とも健康で心にゆとりを持たなければ、周囲に気を配ることも出来ず、良い職場環境の提供はさらに困難になると考えています。私自身もゆとりがない時にはピリピリとした雰囲気を出していると感じることもあり、3つめの取り組みについてはまだまだ道半ばであると感じます。
最後の4つめですが、マネージャーは「役割」であって、人間関係の上下ではないと肝に銘じるようにしています。そこにあるのは、「役割の違い」と「裁量権の違い」だけです。それを勘違いして権力を振りかざすようになり、部下の意見などを寄せ付けないような管理は職場環境を一気に悪化させると考えています。マネージャーという「役割」に徹して、自身の裁量権を最大限活かしつつ、良い職場環境の醸成・維持を継続していきたいと考えています。
細胞診検査は「細胞検査士」と呼ばれる認定資格を取得した臨床検査技師による鏡検によってなされます。最終診断は病理医に委ねられますが、患者さんに正確な結果を報告するためには己の知識や鏡検技術の向上が欠かせません。
私見ですが細胞検査士として重要な3つの要素を挙げさせていただきます。
1つめは、「知識のup to date」です。同じ癌という括りでも組織型が異なると治療が異なってくるので、臨床情報をもとに細胞診断で用いる疾患分類は常に最新の状態にしておく必要があります。
2つめは、「患者さんのことを想う」です。臨床情報をもとに標本を鏡検して細胞所見や推定病変を記載していきますが、患者さんと一度も対面していないので患者さんの心境は分かりません。細胞診検査は、がんの検出を目的としていることが多いため患者さんはきっと不安だと思います。鏡検している標本が、家族や知人だったらと思いながら丁寧に、確実に、鏡検し判定をするように心がけています。
3つめは、「チームワークで臨む」です。私は細胞検査士になって11年が経過しましたが、まだまだ知らない疾患は山ほどあります。また、人間ですので見落としもあるかもしれません。そのため当院では、結果を報告するまでに必ず細胞検査士が2名で鏡検することになっています。また、難しい症例に遭遇した場合は、先輩の細胞検査士や病理医とディスカッションをすることができる環境が望ましいと考えています。
細胞診検査は、次の検査に繋げるための重要な役割を担っていますが、細胞診断だけで治療が開始される場合もあり、責任は重大です。しかし、非常にやりがいがある検査だと思います。
これから細胞診検査に従事する後輩には、私も諸先輩方にしていただいたように日常業務の習得の指導だけではなく、より信頼される細胞検査士の育成に努めたいと思います。
患者さんが、正しい診断がなされ最適な治療を受けられるよう、細胞検査士のスタッフ一同でがん診断精度の向上に励みたいと思います。
私は現在、超音波診断課で、心臓、血管、腹部、甲状腺、関節などの超音波検査を担当しています。入社し最初に配属されたのは検体部門の血液検査室でした。その後、生体検査課、超音波診断課と異動しました。生体検査に異動してから脳波検査や電気生理検査なども担当しました。当直業務を行うにあたり、検体検査と生体検査の両方を経験できたことは、検査技師としての視野がとても広がりました。今、超音波検査を担当して感じている事は、病態について一つの方向からのアプローチではなく、多方面からのアプローチが出来るようになった事です。
超音波検査士(循環器領域)の認定資格を取得し、学会、講習会に参加し自己研鑽に努めています。超音波検査を依頼する科は多くの診療科があり、多岐にわたる症例を数多く経験することができます。日々、勉強であり、成長ができる環境だと感じています。このような環境下で私自身も、先輩からたくさんのことを学びました。これからは私が自分の経験をプラスして後輩達へ伝えていかなければなりません。
私自身も、まだまだ未熟ですので、応えられないことも多いかもしれませんが、そこは一緒に考えて、勉強をし、共に向上できればと思います。今後も幅広い知識をそなえつつ、信頼される技師になれるよう努力していきたいと思っています。
私の目標は、日赤愛知医療センター名古屋第二病院の組織適合検査室を日本一の移植検査施設にすることです。
当院は腎臓移植施設として件数も成績も日本でトップクラスを誇っています。我々組織適合検査室も、自施設の移植検査のみならず他の施設の検査も請け負っており、国内トップクラスの件数をこなしています。また、日本臓器移植ネットワークの特定移植検査センターとしての役割を担っており、東海地区で脳死・心停止ドナー(提供者)が発生した場合、多岐にわたる検査を24時間365日対応で行う体制を築いています。
このように実績を積むには非常に恵まれた環境下にありながら、自分の実力が施設の名声に伴っていないと常に感じていました。他施設のHLA検査技術者の方々と比べて、自分は何て未熟なのか!日本一の移植施設を支える検査室は日本一でなければならない!そんな想いを胸に、自分の成長が組織の成長につながると信じて、研究、発表、講演、大学院進学などがむしゃらに邁進してきました。
しかし今、係長として思うことは、誰か個人の成長によって組織が成長することはない、(正確には「あるべきではない」)ということです。働き方改革により、一部の人間の犠牲によって組織が成り立つような時代は終わりました。本当の意味での組織の成長とは、次世代へ経験が受け継がれ、個々が成長し続ける、そんな組織だと思います。国内の移植検査施設には、私より経験も実績も豊富な方々がたくさんいます。そのような施設では若くて優秀な人材が次々と生まれています。我々の検査室は、なかなかメンバーが定着せず苦しい時期がつづきましたが、最近徐々にですが成長の兆しが芽吹き始めてきたように感じます。
冒頭の目標ですが、私一人の力で叶えられるものではありません。組織としての成長が継続力を持ったとき、初めてその目標に近づけると思っています。私自身、いつまでも最前線にいられるわけではないでしょう。40歳にしてこのようなことを言うのは老け込みすぎていますが、私を踏み越えてくれる人材が育つまでは、せいぜい高い踏み台でありつづけたいと思っています。
私は生体検査課でプレイヤーとしてだけではなく、係長としてマネジメント業務にも携わらせていただいております。プレイングマネージャーとしては発展途上の私ですが、今後のビジョンを挙げさせていただきます。
私の目標は生体検査課全員の技量や知識の向上と均衡化です。以前の私は、一人のプレイヤーとして精度の高い検査を患者さんに提供できれば良いと考えていました。しかし、マネージャーとしての視点で考えたとき、少数精鋭のチームでは限界があり、個人の技量を磨くだけでは、チーム全体としてのレベルアップに繋がらないと思うようになりました。検査を受けられる患者さんは技師を選べません。技師のキャリアは様々ですが、どの技師が検査を行ってもクオリティの高い検査結果を提供することが重要であり、それが医療専門職としての責任です。こうした理由から、患者さんへより良い医療を提供するためには、チーム全体のレベルアップが必要不可欠であると考えます。
チームのレベルアップは技師教育がとても重要であると考えます。私が後進の指導で大切にしていることは、自分の考えを強要するのではなく、共感してもらい、目標までの道のりを一緒に考え、責任をもってゴールまで導くことです。私の指導や指示が一方通行の命令になってしまってはいけません。以前、相手の話を聞こうとしないで、自分の価値観を強要してしまったことがありました。結果的にその時は上手に教育することができませんでした。それ以降は、自分と相手の考えを共有し、どうしたらできるようになるのか一緒に考えて実践することで、少しずつですが確実に前進することができました。遠回りのようですが、これが一番の近道だと考えています。
検査結果を出すことだけではなく、患者さんの病気を診断するために適切な情報を提供することが、臨床検査技師として大切なことだと考えます。しかし一人では「最高のチーム」を実現することができません。チームの成長が必要不可欠です。今はまだゴールが見えず不安になったり、自分のマネージャーとしての資質を疑ったり、といろいろと悩んでしまう時もありますが、諦めることなく目標に向かって邁進したいと思います。
生化学検査では、患者さんと接する機会はほとんどなく、測定結果がどのように利用されているのかを直接目にする機会も多くはありません。しかし、眼には見えない患者さんの体の状態を確認するには欠かせない検査をしています。生化学検査での業務はその大部分が自動分析装置により測定した検査結果を報告するというものです。人の手を介さない分、報告する技師による検査結果の差は生まれにくい部署ではあります。しかし、精度の高い検査結果を報告するためには、自動分析装置の突然の不具合をできる限り未然に防ぎ、不具合が生じた際にはいち早く発見、対処していくことが重要です。私は生化学検査での配属が10年を超え、以前よりその判断に迷うことが少なくなったように感じます。生化学検査係には20代、30代の技師が多く配属されています。自動分析装置の不具合への対処は経験で判断できる場合もあるため、伝えていければと思っています。また、私自身がそういった若い技師とさほど年が離れていないため、何かあったときに相談しやすい存在でありたいと思っています。そのために、相談を受けた際には「頭から否定しない」ことを心がけています。否定されてしまうことが多いとミスやトラブルの際の報告や改善の提案などをためらう原因となるからです。報告や提案を気軽に行える方が業務や職場環境の改善につながると考えているので、報告や提案のしやすい風通しのよい環境にしていきたいと思っています。業務改善につながる提案をすることに経験年数は関係ありません。経験年数の短い技師のほうが新鮮な目で物事を見られるため、ベテランでは当たり前のこととしてとらえてしまうことへの疑問を抱き、改善につなげることができるかもしれません。些細なことであっても改善につながることは取り入れていきたいと考えています。この先働いていく上でも「否定しない」ことは大切にしていきたいです。