当院について

泌尿器科の腹腔鏡下手術とは

「腹腔鏡下手術」という言葉を最近耳にされる方も多くいらっしゃると思いますが、泌尿器科の領域でも腎臓がんに対する「腹腔鏡下腎摘出手術」や副腎腫瘍に対しての「腹腔鏡下副腎摘出術」は、標準的手術方法として広く普及しつつあります。日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院泌尿器科では、1997年より副腎腫瘍に対し腹腔鏡手術の適応を開始しましたが、2007年からは腎臓がんに対しても腹腔鏡下手術を本格的に導入し、患者さんの身体的負担の少ない手術治療に取り組んでいます。
腹腔鏡下手術とは、お腹に5~12mm程度の穴を3~4箇所程度開けて、カメラや手術器具をその穴から挿入し、モニターに映し出された映像下に行う手術です。カメラによる拡大視効果によって非常に細かい血管などの構造まで見ることができ、非常に繊細な操作が可能となることで従来の開腹手術よりも少ない出血量で手術が可能となります。当院では、腹腔鏡手術専用に開発された超音波切開凝固装置やさらに止血力の強い血管シールシステムを導入し、より出血量の少ない手術を目指しています。
当科では、国内トップクラスの施設で修練を積み、日本内視鏡外科学会の技術認定資格および日本泌尿器科学会/日本泌尿器内視鏡学会の泌尿器腹腔鏡技術認定資格を取得した医師が中心となって根治性と安全性を両立した手術を心がけて手術を行っています。

腹腔鏡下手術の特徴

腹腔鏡下手術の特徴のひとつには手術による腹部の傷が小さいことが挙げられます。通常の腎臓や副腎の開腹手術では20~30cm程度にわたって腹部や腰部を切開しますが、腹腔鏡下手術であれば3~6cm程度の傷一ヵ所5mm~1cm程度の傷を数ヵ所切開すれば手術を行うことができます。また、腹腔鏡下手術の手術時間は開腹手術と比べて長めですが(図1)、カメラによって拡大した視野で手術を行うことによって細かな血管を処理することができ、出血量も少なくすることが可能となりました(図2)。食事を開始した日(図3)、歩行開始した日(図4)、術後の入院期間(図5)などの患者さんの回復の早さも開腹手術より優れていました。

※図1~図5は、2007年7月から2010年1月までに日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院泌尿器科で腎臓がんに対して腎摘出手術を行われた患者さんのうち、腹腔鏡下手術と開腹手術の間で年齢や肥満度(BMI)、癌の進行度等に差のない患者さんを比較しています(図6)。

腹腔鏡下手術の利点と欠点

<利点>
1.傷が小さいことから、術後の痛みが少なく、美容的観点からも優れている。
2.術後の回復が早く、入院期間が短縮される。
3.術野がモニター画面上に拡大されるため、細かく丁寧な手術操作が可能となり、出血量も少なくなる。
4.開腹手術では困難な深部の手術も比較的容易に行える。
<欠点>
1.手術操作に慣れが必要である。直接手で触った時の感覚がない。道具を動かせる角度が限られている等の理由から、術者には高度な技術が要求される。
2.手術操作を行うスペースを確保するために炭酸ガスを使用するので、呼吸と循環に影響をあたえることがある。
3.手術操作の制約のため、手術時間が長くなることがある。

腎臓がん手術における腹腔鏡下手術と開腹手術の間での癌の根治性の差について

海外や国内施設の報告でも、Ⅰ期・Ⅱ期の腎臓がんに対する腎摘出手術後の生存率や再発率は開腹手術と変わりはないという多くの報告が発表されています。私たちも、がんの根治性を十分に意識し、腹腔鏡下手術といえども、開腹手術と同程度にがん病巣の切除を行うように心がけています。(注:当院では、Ⅲ期・Ⅳ期の進行した腎癌に対しては、従来の開腹手術を行っています)
(図7)は、2007年7月から2010年1月までに日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院泌尿器科で腎臓がんに対して腎摘出手術を行われた患者さんのなかで、年齢や性別、肥満度(BMI)、癌の進行度(病期分類)等に差のない(図6)患者さんの間で腹腔鏡下手術と開腹手術の再発率を比較したものです。腹腔鏡下手術の再発率は、開腹手術と比べても勝るとも劣らないという成績を得ることができました。

腹腔鏡下腎部分切除術、腹腔鏡下前立腺全摘手術も行っています。

2009年から腎機能を温存する目的で腫瘍径の小さい腎臓がんに対する腹腔鏡下腎部分切除術を、2010年からは出血が少ない、傷が小さいなど患者さんにとって負担の少なくできる手術として前立腺がんに対する腹腔鏡下全摘手術までを拡大して行っています。(注:腫瘍の場所や大きさ、進行度によっては、その適応とならない場合もあります。)

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