前立腺肥大症について

前立腺肥大症について

当院では前立腺肥大症に対して、内服治療、手術療法を行っています。
必要な場合に手術をお勧めしています。
当院では、経尿道的前立腺切除術(バイポーラTUR-P)、ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)、Urolift(経尿道的前立腺吊り上げ術)を行っています。
前立腺の大きさや患者さんの状態を見て手術方法を決定いたします。
*比較的小さい前立腺は従来通りのTUR-Pで対応する事が多いです。
*50ccを超えるような大きな前立腺肥大症の場合はHoLEPをお勧めします。
*前立腺サイズが50cc程度の、 ご高齢の方、 長時間の手術が難しい方、 出血リスクが高い方にはUroliftを提案いたします。バルンカテーテル留置で尿路管理されている方も適応になることがあります。
排尿には前立腺よりも膀胱の機能が重要です。
前立腺肥大症を放置しておくと、膀胱に不可逆的な変化が起きてしまい、前立腺の治療をしても排尿困難が治らない場合もあります。
適切な時期に治療を開始することが重要です。

1.前立腺肥大症とはなんでしょうか?

前立腺肥大症は、男性特有の生殖器である前立腺が肥大し、尿道を圧迫することで様々な排尿障害を引き起こす病気です。前立腺は男性にしかない生殖器の一つで、精子に栄養を与えたり、精子を保護したりする役割を持っています。前立腺は膀胱の出口で尿道を取り囲んでおり、成人男性の前立腺の体積はおよそ20cc以下(クルミ大)ですが、肥大すると卵やミカンの大きさになることがあります。前立腺には外腺と内腺という2層構造になっています。その内腺が肥大して、尿道が圧迫されることにより、排尿症状(尿が出にくい、尿勢低下、尿が途切れる、腹圧排尿など)や蓄尿症状(頻尿、夜間頻尿)を引き起こします。

2.原因とリスクファクター

前立腺肥大の原因は完全に解明されていませんが、最も明らかな危険因子は加齢です。前立腺肥大症の頻度は、年齢とともに多くなり、50歳から頻度が増加します。50歳を過ぎると急増し、60歳ではおよそ2人に1人が発症すると言われています。その他、男性ホルモンの変化、遺伝的要因、生活習慣病(メタボリックシンドローム)、食生活などが関連していると言われています。

3.主な症状

前立腺肥大症の症状は多岐にわたり、大きく3つに分けられます。
①排尿症状(尿を出すことに関連した症状)、②蓄尿症状(尿を貯めることに関連した症状)、③排尿後症状(排尿した後に現れる症状)の3つです。

3.1. 排尿症状(尿を出すことに関連した症状)

・尿が出始めるまでに時間がかかる(尿を出したくてもなかなか出ない)
・尿の勢いが弱い (尿勢低下)
・尿が分かれる(尿線が何本かに分かれて出る)
・排尿の途中で尿が途切れる (尿線途絶)
・力まなければ尿が出ない (腹圧排尿)

3.2. 蓄尿症状(尿を貯めることに関連した症状)

・頻尿(頻繁に尿意をもよおす。朝起きてから就寝まで約8回以上)
・夜間頻尿(就寝後1回以上排尿したくて起きる)
・尿意切迫感(急に我慢できないような強い尿意が起こる。トイレまで間に合わず尿が漏れる場合もある)
・「尿意切迫感」を伴うものは「過活動膀胱」と呼ばれ、前立腺肥大症の患者さんの半分程度の人に過活動膀胱がみられます。

3.3. 排尿後症状(排尿した後に現れる症状)

・残尿感(排尿後、「尿が出切っていない」といった感じがする)
・排尿後尿滴下(尿が終わって下着をつけた後にも尿が漏れてしまう)

症状の程度は個人差が大きいです。毎日無意識に済ませている排尿ですから、徐々に尿が出にくくなっていくため症状になれて意識しにくいかもしれません。

4.進行と合併症

前立腺肥大症は加齢とともに進行することが多いですが、必ずしも治療が必要となる症状を伴うわけではありません。しかし、進行すると以下のような合併症を引き起こす可能性があります。

・尿閉:
膀胱内に尿が十分貯められているのに、尿が出ない状態をいいます。飲酒や風邪薬、抗不安薬、抗不整脈薬などが要因となることもあります。
・血尿:
前立腺肥大症に伴って、尿道粘膜が充血し、血尿が出る場合があります。大量出血の場合は貧血を起こしたり、血が膀胱に貯まって尿閉になることもあります。
・膀胱結石: 前立腺肥大症により、膀胱内に残尿があると、結石ができやすくなるといわれています。排尿時痛や血尿の原因になります。
・尿路感染症: 残尿が細菌の増殖を助長することで起こります。
・腎後性腎不全:
多量の残尿が原因で膀胱内の圧力が高くなり、尿管から膀胱への尿の流出が妨げられるために、腎臓から尿が出なくなることが原因です。水腎症といいます。
・神経因性膀胱: 膀胱に常に多量の残尿が存在し、膀胱の筋肉が働かなくなります。

5.検査と診断

前立腺肥大症の検査・診断は泌尿器科で行います。主要な検査項目は以下の通りです。

・問診: 症状の始まり、変化、困っていること、病歴などを確認します。
・国際前立腺症状スコア(IPSS):
「7項目の質問で構成された世界共通で使用されているスコアで、患者さん自身が答えます。」(検査・診断方法は?)。合計点数で症状の重症度を軽度(0~7点)、中等度(8~19点)、重度(20~35点)に分類し、治療方針の決定や治療効果の評価に用いられます。QOLスコアも併用して、症状が日常生活にどれくらい支障をきたしているかを評価します。
・身体所見(直腸内指診):
医師が患者さんの肛門から直腸に指を入れ、直腸壁から前立腺に触れて、大きさや硬さの有無を確認する直腸内指診を行うこともあります。前立腺肥大症以外の疾患(前立腺がんなど)の鑑別にも重要です。
・尿検査: 血尿、尿路感染症の有無などを確認し、他の疾患と鑑別します。
・血清PSA測定(前立腺特異抗原):
血液検査でPSA値を測定します。PSAは前立腺癌のスクリーニング検査として有用で、正常値は4ng/dL以下ですが、前立腺癌があると正常値を超えて上昇します。前立腺肥大症や前立腺炎でも上昇することがあります。
・尿流測定:
トイレ型の特殊な検査機器に排尿することで、尿の勢い、排尿量、排尿時間などを計測します。排尿障害の有無や程度を確認します。
・残尿測定: 排尿直後に超音波検査や導尿で膀胱に残っている尿の量を測定します。
・超音波検査: 超音波を発信するプローブを下腹部または肛門から挿入し、前立腺の大きさ(体積)を測定します。
・MRI検査:前立腺癌が合併していないか確認する場合に行います。大きさや前立腺の形も分かります。
・尿道膀胱鏡検査:前立腺の尿道の圧迫具合、膀胱内の異常の有無を確認します。
・排尿日誌: 24時間の排尿時刻と排尿量を記録し、頻尿の原因特定に役立てます。
・尿流動態検査(圧尿流検査):
膀胱内圧と尿流を同時に測定し、膀胱の排尿機能と蓄尿機能、通過障害の有無を調べます。侵襲的な検査であるため、必要に応じて選択されます。
・血清クレアチニン値測定: 腎機能障害の有無を確認します。
・上部尿路超音波検査: 水腎症(腎臓の腫れ)の有無を調べます。

6.治療方法

前立腺肥大症の治療法は、症状の程度や合併症の有無によって選択されます。

6.1. 保存的治療

・生活指導:
刺激性食物の制限、便通の調節、適度な運動、長時間の座位や下半身の冷えを避ける等で症状の緩和が得られる場合があります。
・経過観察: 自覚症状が軽度であれば、定期的な経過観察が推奨されます。
・健康食品・サプリメント: ノコギリヤシなど前立腺肥大症に有効と言われるものもありますが、科学的根拠は十分ではありません。

6.2. 薬物治療

症状が比較的軽い場合や、手術を必要とする合併症がない場合は、まず薬物治療から開始されます。薬物治療は主に尿道の広がりを良くする薬(α1ブロッカー)や前立腺を小さくする薬(ホルモン剤)などがあります。

・アドレナリン受容体遮断薬(α1遮断薬):作用:
前立腺と膀胱頸部の平滑筋にあるα1アドレナリン受容体を遮断し、筋肉の緊張を緩めることで尿道の圧迫を解除し、尿の通りを良くします。比較的早期に症状改善が見られます。
・ホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE5阻害薬):作用: 前立腺や尿道の平滑筋を弛緩させ、尿の通りを良くします。
・5α還元酵素阻害薬:作用:
男性ホルモン(テストステロン)が前立腺の肥大に関与する活性型ホルモン(DHT)に変換されるのを阻害し、前立腺を20%程度縮小させる可能性があります。PSA値を約半分に低下させるため、前立腺癌の見逃しに注意が必要です。副作用に勃起不全(ED)、射精障害、性欲低下などがあります。
・抗コリン薬/アドレナリン受容体β3作動薬:
前立腺肥大症に過活動膀胱を合併している場合に併用されます。膀胱の緊張を緩め、尿意切迫感や頻尿を改善します。

6.3. 手術治療

薬物治療で効果が不十分な場合や、尿閉、肉眼的血尿、膀胱結石、腎機能障害、尿路感染症などの合併症が見られる場合に検討されます。前立腺肥大症に対する手術の最もスタンダードな方法は、お腹を切開せず内視鏡で行います。尿道に入れた内視鏡カメラを見ながら行う手術で、腹部に傷はつきません。近年は低侵襲な術式が主流です。大きな前立腺の場合は開腹手術が選択されることもあります。

*比較的小さい前立腺は従来通りのTUR-Pで対応することが多いです。
*50ccを超えるような大きな前立腺肥大症の場合はHoLEPをお勧めします。
*前立腺サイズが50cc程度の、ご高齢の方、 長時間の手術が難しい方、出血リスクが高い方にはUroliftを提案いたします。バルンカテーテル留置で尿路管理されている方も適応になることがあります。

  • 経尿道的前立腺切除術 (バイポーラTURP: Transurethral Resection of Prostate):当院で行っています。

特徴:電気メスで前立腺を削り取る方法。古くから行われている標準的な術式ですが、出血が多めです。前立腺のサイズによって手術時間、出血量が変ります。バイポーラ手術は生理食塩水を用いるため、水中毒などの副作用は少ないと言われています。身体には悪影響を起こしませんが、精液が尿道からでていかない逆行性射精は起こります。

手術時間:約1~3時間

入院期間:7-8日程度。


Boston scientific社 ホームページより抜粋、一部改変

・ホルミウムレーザー前立腺核出術 (HoLEP: Holmiumu Laser Enucleation of Prostate): 当院で行っています。
レーザーを照射しながら、肥大した前立腺(内腺)を被膜から塊としてくり抜き、膀胱内で粉砕・吸引して摘出します。

特徴:
大きな前立腺肥大に対しても少ない出血で行うことができます。内腺のほとんどを切除するため再発が少ないです。TURPより出血が少ないですが、術後の尿失禁のリスクがやや高まることがあります。逆行性射精は起こります。

手術時間: 1〜3時間程度。

入院期間: 5〜7日程度。


Boston scientific社 ホームページより抜粋




Boston scientific社 ホームページより抜粋

当院症例
手術により前立腺部尿道が広がっていることがわかる

・経尿道的前立腺吊り上げ術(ウロリフト): 当院で行っています。

特徴:
前立腺を圧迫して尿道の内腔を広げるために、特殊な小型の針と糸で前立腺を4~6箇所牽引固定します。牽引されたことで尿道が広がります。切除でも核出でもないためHoLEP、TUR-Pよりも尿の勢いの改善率は低いです。出血が少なく低侵襲です。逆行性射精は起こりにくいです。

手術時間:20~30分

入院期間:1~2日


図:Uroliftパンフレットより

手術の選択にあたっては、患者さんの状態、前立腺の大きさ、合併症、医療施設の設備、患者さんの希望が考慮されます。医師としては専門的立場からの判断を患者さんに説明しますが、患者さんも不明点などがあれば主治医に質問し、納得のいくまで相談した上で手術を受けていただきたいと思います。

7.さいごに

排尿はとてもデリケートな問題ですので、お一人で悩んでおられる方が多いと思います。高齢社会においては、加齢に伴い前立腺肥大症は今後ますます増え続ける病気と思います。
珍しい病気ではないため、加齢だからと諦めず、泌尿器科医にぜひご相談ください。
適切な治療を受けることで、生活の質(QOL)が向上するかもしれません。

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