一般消化器外科では、年間約100例強の胃がん患者さんの手術を実施しています。
当院では開腹手術と比較して体に負担の少ない手術(低侵襲手術)に力を入れています。2006年からは腹腔鏡手術を、さらに2018年からはロボット支援下手術を導入開始しました(図1)。当初は、早期胃がんに限定した手術として行っていましたが、従来の開腹手術と同等の安定した手術成績を収めていることから、最近では徐々に適応を拡大しています。また、高齢者や、心臓、肺、糖尿病、腎不全など合併症を有する患者さんにおいても、全身麻酔が安全に実施できると判断されれば、積極的に実施しています。その結果として、2013年には腹腔鏡手術の割合が初めて50%を超えました。以下に、腹腔鏡手術、ロボット支援下手術の説明を行います。
図 1 |
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腹腔鏡下胃手術ではへそに4cm程度の切開を加えて、カメラ(腹腔鏡)を挿入して、腹腔内の様子をテレビモニターに映し出します。その後、左右の腹部に5mm~1cm程度のきずをあけ、そこから鉗子や超音波メスなどを入れて、腹腔内で手術を行うものです(図3)。
切除した胃はへそのきずから取り出します (図4) 。当科では2019年3月までに418例に腹腔鏡下胃手術を行ってきました。
図 3 |
図 4 |
一般的に腹腔鏡下手術の長所として、傷が小さく痛みが少ない、術後の体力の回復が早いことなどが挙げられていますが、当院では、最新の手術器具及びハイビジョンカメラでの鮮明な画像で手術を行うことで、安全性のみならずより精密で繊細な手術を心がけています。
順調であれば、手術翌日から飲水開始、歩行が可能となり、術後3日目には、おもゆが始まります。1-2日ごとに3部粥、5部粥、7部粥、全粥に変更となり、通常10日から14日程度の入院で退院となります(図5)。
図 5 |
短所としては開腹手術に比べ器具の扱いなどに関して高度の技術が必要であり、外科医に腹腔鏡下手術のための特別なトレーニングが必要であることです。但し、我々の施設では、大腸がん、胆石症、虫垂炎などの手術を加えると、年間500例以上の腹腔鏡手術を積極的に実施しており、腹腔鏡手術に習熟できる環境にあると言えます。
2018年4月から胃癌に対するロボット支援下胃切除術が保険適用となりました(図6)。ロボット支援下手術は、腹腔鏡手術と同様の小さなきずで手術を行いますが、鉗子やメス、カメラは手術器械(手術支援ロボット)に接続され、外科医はロボットを操作して手術を行います。ロボット支援下手術は腹腔鏡下手術にくらべさらに精細な手術が可能で有り、より手術合併症が少なく、治療成績は変わらないことが報告されています。しかしロボットを使用するため器械に習熟する必要があり、専門のトレーニングが必要とされます。当院一般外科では学会による腹腔鏡手術認定資格を有し、かつロボット手術のトレーニング、メーカーによる術者としての認証を取得した医師が3名常駐しています。2018年6月よりロボット支援下手術を導入し2019年3月までに19例の手術を行なってきました。手術成績もよくさらに直腸手術にも拡大しています。
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図8は当院で2001年1月から2007年5月までの期間で胃がん手術を受けられた患者さんのステージ(がんの進行度)別の生存曲線と5年生存率を表しています。残念ながら全ての胃がんを外科手術のみで根絶できることはできません。なかでも、すでに肝臓や腹膜など遠隔転移が出現しているステージ IVの患者さんには、ガイドライン上も胃切除手術の有効性が証明されていないのが現状です。
当院では一般消化器外科、消化器内科や薬物療法科の医師が互いに連携を取りあい、Stage II-IIIの患者さんには、手術を行った上で、がんの再発を予防するための抗がん剤治療を行っています。また、ステージ IVの患者さんや手術後に再発が確認された患者さんに対しては、がんの進行をくい止めるための抗がん剤治療(TS-1、シスプラチン、オキサリプラチン、ゼローダ、タキソール、タキソテール、トポテシンなど)、分子標的治療(ハーセプチン、サイラムザ)、免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボ、キイトルーダ)を行っています。
図 7 |
当科で行う手術や抗がん剤治療などを含むすべての治療は、患者さんやそのご家族との説明を十分にさせていただき、同意がいただけた治療を行っています。そのため、患者さんの体力、年齢、社会的背景、ご希望などを十分お聞きした上で、もっとも納得していただける形での治療方法を患者さんやそのご家族と一緒に選択させていただきます。不明な点などがあれば、お気軽にいつでも当科の医師、看護師、メディカルスタッフなどに相談していただける環境づくりにも努めています。