当院について

当院の内分泌外科について

当院の内分泌外科は甲状腺疾患や副甲状腺疾患を持つ患者さんの治療を専門にしております。

甲状腺疾患について
①手術の対象となる甲状腺疾患について
近年、甲状腺の手術は増加傾向であり全国で年間1万8千件ほどの甲状腺手術が施行されています。その背景には、頚動脈エコーなどの糖尿病や高脂血症など内科疾患の合併症に対する検査や、整形外科での頚椎症に対するMRI検査の増加に伴い、甲状腺腫瘍が発見される頻度も増加したことがあります。
甲状腺腫瘍は胃癌や大腸癌と違い、術前に確定診断がつかないことも多く、言い換えれば手術してみないと良悪性の鑑別ができないこともあります。したがって、手術適応(表1)を満たし、患者さんの希望があれば悪性と診断が確定されていなくても手術されます。
また、甲状腺腫瘍以外で手術が必要となるケースに多いのがバセドウ病です。最近は、バセドウ病に対する外来での放射線治療が承認され、比較的簡易に行われるようになったため手術数は減少傾向にあります。しかし、放射線治療後はしばらく妊娠を避けなくてはいけないこと、病状によってはバセドウ病が胎児に悪影響をもたらすことから、妊娠を早期に希望される方では手術が望ましい場合があります。また、お薬による治療や放射線治療に抵抗性を示す場合やバセドウ病に腫瘍を合併している場合なども手術の適応になります。

②甲状腺手術の特徴と専門性
甲状腺は頚の前面に位置しており、周囲に気管や食道、頚動脈、発声をつかさどる反回神経が隣接しています。そのため、安全に甲状腺の手術を行うためには専門的な知識と技術が必要です。日本内分泌外科学会は、甲状腺手術の安全性と専門性を担保する目的で専門医制度を実施しております。2020年5月の時点で全国に361名の“内分泌外科専門医”がおりますが、当科は専門医数が多い病院です。

③安全で質の高い手術を行うための取り組み
・反回神経の温存について
甲状腺手術の難易度が高い理由の一つに反回神経および上喉頭神経外枝の存在があげられます。前述のとおり、これらの神経は発声をつかさどっており、甲状腺に隣接して存在しております。特に、反回神経がダメージを受けることで発声や飲み込み、呼吸の機能に影響が出ることがあります。神経を同定し、それを温存することに高い専門性を要します。
術中神経モニタリング装置という手術機器が甲状腺手術に導入されるようになり、神経の同定や温存に有効であることが示されています。我々は甲状腺手術において、特別な理由がない限り全例で術中神経モニタリング装置を使用し、神経の温存に努めています。

・手術全体の安全性を高めるために
我々の施設の特徴は総合病院であるということです。様々な合併症を有する患者さんにおいても循環器科、整形外科、麻酔科等の力を結集し、手術の安全性を高め、周術期合併症に対しても速やかに対処することが可能です。また、病理医も常勤しており術前に診断のついていない甲状腺腫瘍においては迅速病理を行い、必要に応じて追加切除(郭清や全摘)を術中に判断することが可能です。

・手術の創について
手術はできる限り頸部小切開で行うこととし、首には傷をつけたくないという方は内視鏡補助下甲状腺切除術も適応があれば行っています。いずれの手術も入院期間は、通常1週間以内(手術前日から術後4もしくは5日)です。

 

副甲状腺疾患について
副甲状腺は甲状腺の傍に存在する米粒ほどの大きさの小さな臓器です。しかしながら甲状腺とは全く違う働きをします。甲状腺は主に甲状腺ホルモンといった代謝を促進するホルモンを分泌しますが、副甲状腺は副甲状腺ホルモンを分泌します。副甲状腺ホルモンは、骨と腎臓の尿細管にはたらき、血液のカルシウムを上昇させるホルモンです。副甲状腺疾患のうち手術治療の対象となるもののほとんどが副甲状腺機能亢進症という、副甲状腺ホルモンが過剰に分泌されてしまう病気です。過剰に分泌された副甲状腺ホルモンによって骨粗鬆症、尿路結石そして高カルシウム血症が起きることが知られています。ただし、副甲状腺ホルモンや血清のカルシウム濃度は通常の診療では検査されないこと多く、副甲状腺機能亢進症が診断されないまま病状が悪化してしまうケースもめずらしくありません。
副甲状腺機能亢進症は、副甲状腺腫瘍などによる原発性と、腎不全などを原因として起こる二次性に分けられます。原発性副甲状腺機能亢進症の場合は1腺のみが腫大するケースが多く、こういったケースでは小切開で行い、傷が目立たず、身体への負担も小さい手術を行うように心がけております。※遺伝性の原発性副甲状腺機能亢進症の場合では全腺摘出が必須となります。
また、当科では以前からたくさんの透析患者さんの治療に携わっており、二次性副甲状腺機能亢進症の手術症例数は累計3000例を超え世界一の症例数となっています。二次性副甲状腺機能亢進症の手術では、副甲状腺をすべて見つけ出し切除することが望ましいですが、当科ではこれまでの豊富な経験に基づき、確実で安全な手術を心がけています。